今回は、今年10月から始まる「保険料調整制度」についてお話します。この制度は、新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者の保険料負担を3年間限定で軽減する制度です。年金機能の強化と短時間労働者に対する社会保険の適用拡大を目的に創設されました。社会保険の適用要件はこれまでも段階的に引き下げられており、2027年10月には厚生年金被保険者数が36人から50人の事業所へ、2035年10月には、10人以下の事業所にまで対象が広がり、企業規模要件は完全に撤廃されることが決定しています。
本来、社会保険料は事業主と従業員がそれぞれ50%ずつ負担しますが、本制度では一時的に事業主が従業員負担分の一部を追加負担します。この追加負担分は3か月後の保険料額から全額差し引かれて還付されるため、企業側は実質的なコスト負担を負うことなく、従業員の手取りを増やすことができます。対象となるのは標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者であり、適用期間は事業所単位で通算3年間と設定されています。
魅力的な制度ですが、3年限定の補助であるため、本来の負担へ戻る4年目に強い失望感や不満を感じやすいという注意点があります。標準報酬月額8.8万円以下の労働者の場合、1〜2年目は本来50%である負担率が25%へ大幅に引き下げられ、手取りが増えたことを実感できますが、3年目に入ると軽減割合は縮小し負担率は37.5%へ、4年目以降は従来通りの50%負担へ戻ります。一度申請すると途中で利用をやめることはできないため、経営者は離職ラッシュや働き控えの再開が起こることをあらかじめ見越しておく必要があります。(ちなみに、働き控えを再開しても2035年には規模要件が撤廃されることが決まっていますので、10年以内には「扶養の範囲内で働く」という選択肢自体が消失することも覚えておいてください。)
この3年間の猶予期間において、中小企業が行うべき3つの取り組みがあります。まずは、4年目以降も残留してほしい「コア人材」を早期に見極め、意図的に育成・戦力化を進めることです。制度終了時に、標準報酬月額の低い従業員は“待遇の改善がなされず手取が減少して離職を選ばざるを得ない人”と、“昇進や役割の拡大によって待遇が改善され残留する人”の二極化が進むと予想されています。だからこそ、この3年間で将来の核となる人材には教育投資を行い、より高い付加価値を生み出せる存在へと引き上げておくことが、制度終了後の人手不足を防ぐ最大の防壁となります。できれば問題が表面化する3年目を迎える前まで(2年目のうち)に、人件費の原資を生み出すための改善策や、4年目以降の人員整理の可能性について考え始めましょう。そして保険料負担が軽減されている期間中に、自社に残ってほしい従業員と丁寧な対話を重ね、週20時間から25時間、さらには30時間へと段階的に労働時間を延ばせるシフト体制を整えましょう。労働時間が増えれば基本給そのものが上がり、制度終了後の手取り減少を十分に相殺できます。最後に、時給アップや基本給の底上げを実現できるよう、業務効率化やサービスの付加価値向上に取り組み、企業全体の収益力を高めていきましょう。
保険料調整制度の導入を契機に、日本企業の雇用スタイルは従来の「短時間×多人数」型から「長時間×少人数」型へ本格的にシフトしていきます。この制度を受け身でやり過ごすのではなく、自社の雇用構造と生産性を抜本的に見直す「戦略的準備期間」として最大限に活用していきましょう。保険料調整制度についてご不明な点がありましたら、いつでもご相談ください。
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